不比翼な酷薄さ、圏外にて【笠井潔・三羽の探偵から】

ハイパ-・テクスト・ノヴェラ-。
空席している中上健次と双璧をなすのは笠井潔だけでしょう最早。
巨洞の闇より献梓する自作説話群に、等量大の批評論客として業を積む
読析の士<レヴォリスト>。

革命とは四方街路にではなく人幹心根にこそ行われなければイケやしません。
笠井潔

構改左派の長首運動から小説家へと徹底した変移を完了せし笠井さんは、
その証”矢吹駆”に「題なる科」続けて与えます。第一偵のシリ-ズ化です。

パリ市内で獄舎めいた賃安の軒に寄り、奨めな個教授の哲郎講釈にだけ尊ぶ。容姿は秀麗痩身だが厳冬まんま。”簡単な生活”~ラ・ヴィ・サンプル~を孤絶と削除の趣に敢行する青年。僅食で送り、辺隣散策と(就寝刻、時偶に弾丸を装填もするナチス軍用ルガ―をこめかみへ宛てての)銃口瞑想が日課。前去に犯歴及び僧院の季節有り。語り役を担う女史-キャンパス・メイト?-の父親警視から請われ、猟奇殺害事跡を思想推論側より伐り拓き、虚仮の受肉でしかない残示疑質を詰めていけば正体へ直接する。又、既にしている。実察へ具を抽出する <現象学> を鎧って。但し、在義に反芻するであろう国家司法捜査とは意を全く沿わさない。黒連の珠すら明かす責ではないと括っている。終局、誰をも凌ぎ昏い淵まで堕りてみるのは彼なんですけれど。当例として占められる筈の、露わな習性に隷属する生物的保存本能と違え、天秤の裁君宜しく宗じ込む理流に憑かれた観念的与罰希求は目手でも触れ得ず。いかにも素っ気ない駆使へ肖られていますが、嘴による識泉で霊魔を祓う主導=修道は苛酷に塗れていましょう。

笠井潔2

1989を境にJAPANは、潜伏させられた発症の誘核版としてセカイへの散布が始まっていきます。多勢壮言、ド麻痺の闊歩です。総密室化、陳腐の平歪みです。必然の舞台格好へ企てた、”飛鳥井”なる氏(うじ)は<私立>。営職そのものとして指される為か、苗字だけの登壇になります。独称映野記述でありつつ代名詞はゼロです。探合雇用期間を通常貨幣にて書類契約する普遍さ、この紙面が存顔な位の唯物。

新宿・荒木町に所を構えさせた地味凡庸被るリアリズムの図が効き、余計に漂泊列島へ蔓延る病原を浮かす。先代・巽俊吉オ-ナ-退劫により雑式ビル高階の住居兼看板を譲られたんですが、追尾が随伴する拘束依頼は引き承けない故に閑古鳥。半躯の音(ね)か「LAで助務を勤め幾数を踏みプロ基礎技術と規範が浸透するも、フリ-ウェイのガ-ドレ-ル激突と陰HIVに傷んだ妻ジュリアは喪くす」と云った背後は添う。が、滾らない飛鳥井さんから何にも噴きゃしません。進展が驚愕でも不徳な態は執らない。甘さを省けた相確な判断を某官権と分別しつつ央々まで伶悧に収斂へ向きます。なので仕えた終焉からは枠外、と零れるありふれた矜持に於けば牽き摺れないのです。回避出来、屋号へ戻り然るに。世項ではない杢種だからこそ、息薄くとも備えの訓を尋ねるんです己に。

笠井潔3

そして、”大鳥安寿”が。美貌の若きダウンヒル・レ-サ-。語り部のミステリ-専家がスランプ脱するに三恐岳を擁した村の施設へ。嘗てヒ-ロ-・プレイヤ-だったスキ-・スク-ル校長の娘さんで、そのインストラクタ-を担います。雪山に勃帆する凶惨な困窮さ極む殺戮案件と係るが初っ端から、つまり予め咏程~諭度が結ぶに到るまで、百景俯瞰の如く捉えてしまっている神才。とりあえず、各署の聴挙には応じます。捨て児(12/25!)であり乍ら清潔な爛漫さを納めた志魄が魅せ、銀嶺区域限定なのが疎ましいんです。対せよとばかり「天啓」なる集団が割拠鎮座を毎に試み、信者を点滅させているのが特徴。フシギちゃんの銘棚へ措かれたりはさせない安寿は、混俗電波など網羅せしめぬ場へ滑宙の許可なされた姑(う→宇)抜きの賢い子獲鳥(ことり)。ANGELに讃えられたその折りにさえ、「重力へ逆らう羽の威は遣わない」と放った訣ち。<真にて則> 酷し。

ましてや落下傘だとかを此処でなど。

笠井さんのエレガントな香りする文脈で綴られてみようが、
両翼と尻っぽをばたつかせ 飛翔した積もりの社会は征く。
fin